TOBとは?目的や個人投資家が気をつけるポイント

ニュースでよく耳にする「TOB(株式の公開買付)」。2022年のオイシックス・ラ・大地によるシダックスのTOB成立が記憶に新しいのですが、具体的にどのような株式取引なのでしょうか。TOBの種類やルール、メリットとデメリット、保有株がTOB対象になったときに個人投資家が注意すべきポイントなどを分かりやすく解説します。

TOBとは?目的は何か

TOBは「Takeover Bid」の略称で、株式の公開買付を意味する言葉です。公開買付者が買付期間や買付数量、買付予定株数などをあらかじめ公表した上で、不特定多数の株主から株式を買い付ける行為です。証券取引所を介さずに大量かつ直接的な売買がなされます。

日本の証券取引シーンにTOBが導入されたのは1971年で、証券市場外における会社支配権などに影響を及ぼすような重要な株券取引について、透明性と公正性を確保するために証券取引法(当時)に定められました。株券などの売却機会を平等に提供することで投資者を保護する目的があり、現在は企業の買収や合併、子会社化、経営陣による買収によって非上場化する場合などによく実施されています。

2023年3月には金融庁がTOB制度の見直し方針を打ち出しており、TOB実施義務の対象を市場外取引から市場内取引まで拡大することなどを検討しています。TOB制度の見直しは約17年ぶりのことで、制度改正がなされた場合には企業買収におけるさらなる透明性のアップが期待されます。

TOBの種類

TOBは、「友好的TOB」「敵対的TOB」の大きく2種類に分けられます。それぞれの特徴と違いを詳しくご紹介します。

友好的TOB

友好的TOBは「友好的買収」や「フレンドリーテイクオーバー」とも呼ばれるもので、買収対象の会社(経営陣や大株主)の了承を得た上で実施される株式の公開買付を意味します。

日本で行われる公開買付の多くは友好的TOBで、連携先企業やグループ傘下の企業を完全子会社化する際に用いられるケースが一般的です。伊藤忠商事株式会社から株式会社ファミリーマートへのTOB(2020年)や株式会社ディー・エヌ・エーから株式会社データホライゾンへのTOB(2022年)の他、最近では第一生命ホールディングス株式会社からアイペットホールディングス株式会社へのTOB(2023年)などが例として挙げられます。

敵対的TOB

一方の敵対的TOB(敵対的買収)は、その名の通り買収先企業の経営陣や大株主への通知がないまま実施される公開買付のことです。友好的TOBとの最大の違いは「買収先企業からの同意(了承)が得られていないこと」で、公開買付を仕掛けられた企業のほとんどは防衛策をとって買収を阻止しようとします。

最近では、2022年に成立したオイシックス・ラ・大地株式会社からシダックス株式会社への敵対的TOB(最終的にシダックスは意見表明を中立に変更)が大きな話題となりました。日本では長年タブー視されてきた敵対的TOB。これまでの成立件数は非常に少なく、2022年は6年ぶりに年間の敵対的TOB数が0件となりました。

TOBのルール

取引の透明性や公平性を担保して投資家を保護するため、一定のルールに基づいてTOBは実施されています。重要な規制である「5%ルール」と「1/3ルール」について詳しく見ていきましょう。

5%ルール

「5%ルール」とは、取引市場外で行われる株式取得により、買付後の所有割合が5%を超える場合に公開買付を実施する規制のことです。株式の所有率が5%を超えた場合に起こりうる株価の急騰・急落、経営への多大な影響を防ぐためのルールで、株式市場全体の透明性を守る目的も含まれています。ただし、著しく少数の株主から買い付けた場合はその対象ではありません。

1/3ルール

前述したように著しく少数の株主から買い付けた場合には「5%ルール」が適用されませんが、買付後の株式保有割合が1/3を超える場合は「1/3ルール」に基づいてTOBが実施されます。

対象となるパターンには

  1. 取引市場外で60日間に10名以内から買い付けたケース
  2. 取引市場内での立会外取引後に保有率が1/3を超えるケース
  3. 段階的かつ短期間の買付によって保有率が1/3を超えるケース

の3種類があります。

TOBのメリット

TOBには、公開買付者と対象先企業、投資家(一般株主)のそれぞれにメリットとデメリットがあります。一般的な株式買付との違いを確認しながら、TOBのメリットを詳しくみていきましょう。

公開買付者のメリット

TOBと同じように市場内で大量の株式を買い集めた場合、投資家からの注目を浴びて株価が急上昇する可能性が高くなります。買付開始時をはるかに上回る価格での取引が予想され、高値で買い取らざるを得なくなるでしょう。その点、TOBでは一定の価格で株式を買い集められ、TOBにかかる費用やスケジュールも算出しやすくなるのです。

また、TOBでは市場価格よりも高いプレミア価格で取引されるため、TOBに応じる株主が多く、一度に大量の株式を取得できます。時間とコストをかけることなく、効率的に株式を集められるのです。

買付対象企業のメリット

友好的TOBの場合、業績悪化や離職者の増加といった経営的な問題点を改善できる可能性があります。特に連携先企業から子会社化した場合には、企業同士のシナジー効果(企業連携による相乗効果)によって新たなブランディングや経営改善、資金の確保が見込めるのです。

投資家(一般株主)のメリット

株主にとっての最大のメリットは、TOB特有のプレミアムつき価格で株式を売却できることです。公開買付者は効率よく株式を集めるために市場よりも高い価格で買い付けており、一般的に市場価格に3〜5割を上乗せた金額で取引されます。

また、特定の証券取引所を介して売買した場合には手数料がかかりません。通常の売買取引に手数料がかかることを考えるとメリットは非常に大きいでしょう。

TOBのデメリット

TOBにはメリットが大きい反面、デメリットもあります。買付公開者、買付対象企業、投資家それぞれのデメリットを見ていきましょう。

公開買付者のデメリット

友好的TOBの場合はメリットが大きいですが、敵対的TOBの場合は公開買付者もリスクを伴います。買付対象企業の防衛策によって買付がスムーズに進まないばかりか、南青山不動産から広済堂へのTOB(2019年)の事例のように不成立となってしまうケースもあるでしょう。このほか、市場価格よりも高い価格で買い付けなければならない点もデメリットとなります。

買付対象企業のデメリット

TOB(特に敵対的買付)が行われた場合、経営権を奪われてしまうことが最大のデメリットとなります。友好的TOBの場合は元の会社の体制や経営陣、社員を守りながら経営されるケースが多いのですが、敵対的TOBの場合は新たな経営体制への関与が難しくなることもしばしばあるので、事業縮小や社員への待遇の変化なども予想されます。

投資家(一般株主)のデメリット

一般株主には、TOBにどう対処するのかを考えて実際に売買するコストや手間がかかります。TOB発表後には市場内でも価格が上がりやすく、無事に成立すると元の価格に戻るのが一般的です。どのタイミングで売却するのかによって価値が変わってくるため注意しましょう。また、保有している株式銘柄や企業に思い入れがある場合には、TOBによって経営や事業展開に変化が生じることもデメリットになるでしょう。

個人投資家が気をつけるポイント

保有株がTOBの対象になった場合、投資家は保有株を保有し続けるのか、売却する場合にはどのタイミングと方法で売却するのかを考えなければなりません。次のポイントに注意しながら落ち着いて対応していきましょう。

保有し続けるのか、売却するのかを短期間で決める

保有株がTOBの対象になった場合、「TOBに応じて公開買付者に売却するのか」「市場で売却するのか」「保有し続けるのか」のいずれかを選ばなければなりません。TOBに応じる場合は少々複雑な手続きを踏まなければなりませんが、市場価格よりも高く売却できます。

市場で売却することも可能で、手数料はかかるもののTOB発表の効果で一時的に株価の上昇が予想されます。TOBが不成立になる可能性が考えられる場合は、株価が上がったタイミングで市場売却するのも一手です。

「上場廃止」と「強制取得」の有無を確認しておく

仮に市場価格150円の株式がTOB価格で200円にアップしたとしても、過去に220円で購入していた場合は売り時ではないと判断するかもしれません。TOBに応じずに保有を続けることも可能ですが、TOB成立後に上場廃止や株式の強制取得(=スクイーズアウト)が予定されていないかを公開買付届出書を見て確認しなければなりません。なぜなら、上場が廃止されると価値が著しく損なわれ、換金化も難しくなるからです。TOB成立後の動きを想定した上で、保有の継続と売却のタイミングを考えましょう。

保有株がTOB対象になっても冷静に判断しよう

2020年には年間56件、2021年には70件のTOBが実施されました。株式を保有している以上は、保有株がTOB対象になることも十分予想されます。TOB発表後に慌てないよう、個人投資家もTOBの概要やルールを理解した上で、売却や継続を冷静に判断できるように備えておきましょう。

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