- 作成日 : 2024年7月12日
年金繰下げ受給のメリットデメリットとは?計算方法など解説
年金の繰下げ受給とは、65歳以降に年金の受給を遅らせることであり、その分、受給額を増やすことができる制度です。
この記事では、年金の繰下げ受給の仕組みや計算方法、メリットとデメリットについて詳しく解説します。また、繰下げ受給の手続きや必要な準備、繰下げ受給が向いている人の特徴についても説明しますので、老後の生活設計を考えるうえでの参考にしてください。
目次
年金の繰下げ受給とは
年金の繰下げ受給とは、年金の受給開始年齢である65歳に達した後に、一定期間年金の受給を遅らせることで、受給額を増額させる制度です。日本の公的年金制度である国民年金と厚生年金保険では、基本的に65歳から年金の受給が開始されますが、繰下げ受給を選択することで、最大75歳まで受給開始時期を遅らせることができます。
繰下げ受給の仕組み
繰下げ受給では、受給開始時期を1カ月単位で遅らせるごとに、年金額が0.7%ずつ増額されます。例えば、1年間繰下げると年金額は8.4%増額され、5年間の繰下げで42%の増額となるのです。
つまり、65歳で年金を受け取る予定だった人が、70歳まで受給を遅らせた場合、受給額は当初の予定よりも42%増えることになります。仮に、65歳時点での年金額が月額20万円だったとすると、5年間の繰下げで月額28万4,000円になるという計算です。さらに75歳まで受給を送らせると受給額は84%に増え、月額36万8,000円受け取れます。
年金の繰下げ受給の加算額の計算方法
年金の繰下げ受給を選択すると、受給開始年齢に応じて年金額に一定の割合が加算されます。この加算額は、繰下げ期間に応じて定められた加算率をもとに計算される流れとなるのです。ここでは、年金の繰下げ受給による加算額の計算方法について詳しく解説します。
老齢基礎年金の繰下げ受給の加算率
老齢基礎年金の繰下げ受給の加算率は、次のように定められています。
- 1カ月につき0.7%
- 1年につき8.4%
- 最大10年間(120カ月)まで繰下げ可能
例えば、1年間繰下げた場合、年金額は8.4%加算されます。5年間繰下げた場合は、42%加算されることになります。受給開始年齢を75歳まで遅らせることで、受給額を最大84%と大幅に増やすことができるのです。
繰下げ受給の加算額の計算例
それでは、実際に年金の繰下げ受給による加算額を計算してみましょう。ここでは、老齢基礎年金の例を使って説明します。
仮に、65歳から受給する老齢基礎年金の年金額が年額81万6,000円だとします。これを3年間繰下げて、68歳から受給することにした場合、加算額は以下のように計算されます。
81万6,000円 × 0.007 × 3年(36カ月) = 20万5,632円
つまり、3年間の繰下げにより、年額20万5,632円が加算されます。したがって、68歳から受給する老齢基礎年金の年金額は、次のようになります。
81万6,000円 + 17万1,360円 = 102万1,632円
年金の繰下げ受給のメリット
受給額が増える
年金の繰下げ受給の最大のメリットは、受給額が増えることです。繰下げ受給の期間に応じて、年金額に加算されます。例えば、1年繰下げると、0.7%の加算となります。5年間繰下げると42%、10年間繰下げると最大で84%の加算となるため、受給額を大幅に増やすことができます。
仮に、65歳から年金を受給した場合の年金額が月額20万円だとします。これを70歳まで5年間繰下げた場合、月額年金は約28万4,000円になります。つまり、月額8万4,000円も増えることになるのです。
また、物価スライドによる年金額の改定も、繰下げ後の年金額に対して行われるので、物価上昇による年金の実質的な目減りを防ぐ効果ももたらします。
生活資金に余裕ができる
年金の受給額が増えることで、老後の生活資金に余裕ができます。特に、現役時代の収入が高かった方にとっては、年金だけではこれまでの生活水準を維持することが難しい場合があります。繰下げ受給により、受給額を増やすことで、ゆとりのある老後生活を送ることができるでしょう。
例えば、月額8万4,000円の増加は、年間で100万円以上の差になります。この金額であれば、旅行に行ったり、趣味に使ったり、子や孫に贈り物をしたりと、老後の生活をより充実させることができます。
また、増えた年金を貯蓄に回すことで、万が一の医療費や介護費用に備えることも可能です。安心して老後を過ごすためにも、年金の繰下げ受給は有効な選択肢と言えるでしょう。
年金の繰下げ受給のデメリット
年金の繰下げ受給には、メリットがある一方でデメリットも存在します。ここでは、年金の繰下げ受給のデメリットについて詳しく解説します。
受給開始までの期間、年金を受け取ることができない
年金の繰下げ受給を選択した場合、受給開始までの期間は年金を受け取れません。この期間は、最長で10年間となります。この間、生活費を賄うための別の収入源が必要となるでしょう。例えば、70歳から年金の繰下げ受給を選択した場合、70歳までの5年間は年金を受け取れないので、受給までの5年間の生活費は、貯蓄や仕事による収入など、年金以外の収入源で賄う必要があります。
生活費を賄うための蓄えが必要
年金の受給を繰下げている期間、生活費を賄うための蓄えが必要です。この蓄えがない場合、繰下げ受給を選択することが難しくなります。特に、退職後に年金以外に収入がない場合は、注意が必要です。仮に月20万円の生活費が必要だとすると、5年間の繰下げ期間中には最低でも1,200万円(20万円×60カ月)の蓄えをしておきましょう。蓄えがない場合、繰下げ受給を選択することは現実的ではありません。
繰下げ期間中に死亡した場合、増額分を受け取ることができない
年金の繰下げ受給を選択し、受給開始前に死亡した場合、繰下げ期間中の増額分を受け取れません。この場合、繰下げ受給を選択したことによるメリットを享受できないことになります。繰下げ期間中に亡くなった場合、相続人が未支給年金として受け取れますが、総額分は反映されません。
適切な対処方法について、次の通りまとめていますので、参考にしてみてください。
対処方法
- 繰下げ受給を選択する前に、自分の健康状態や平均寿命を考慮する
- 繰下げ期間を短めに設定し、リスクを軽減する
- 死亡リスクに備えて、生命保険などの対策を検討する
年金の繰下げ受給の手続き
年金の繰下げ受給を希望する場合、65歳になる誕生日の前日までに、日本年金機構に申込む必要があります。申込みは、最寄りの年金事務所や市区町村の国民年金相談窓口で行えます。
また、申込みの際には、繰下げ受給期間の選択が必要です。繰下げ受給期間は、1カ月単位で最長10年間まで選択可能です。ただし、一度選択した期間は変更ができないので注意が必要です。
申込みは、年金事務所の相談窓口に直接出向くか、郵送で行います。窓口に出向く場合は、必要書類を持参のうえ、担当者に繰下げ受給の申込みをする旨を伝えましょう。郵送の場合は、必要書類を同封のうえ、日本年金機構に送付してください。
なお、申込みの際には、将来的な年金受給額の試算を依頼することをおすすめします。試算結果をもとに、繰下げ受給のメリットとデメリットを慎重に検討し、適切な繰下げ期間(受給開始年齢)を選択しましょう。
年金の繰下げ受給に必要な準備
年金の繰下げ受給を申請する際には、以下の書類を提出する必要があります。
- 老齢基礎年金繰下げ支給申請書
- 老齢厚生年金繰下げ支給申請書(厚生年金加入者の場合)
- マイナンバー
- 戸籍抄本(マイナンバーを提出する場合は省略可)
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 振込先口座の通帳またはキャッシュカード
これらの書類は、年金事務所や市区町村の窓口で入手できます。場合によっては住民票が必要となるケースがありますので注意しておきましょう。
また、申請書は日本年金機構の公式ホームページからダウンロードすることも可能です。書類の記入方法がわからない場合は、窓口の職員に相談しましょう。
本人確認書類は、申請者本人であることを証明するために必要です。運転免許証やパスポートのほか、写真つきの住民基本台帳カードやマイナンバーカードも利用できます。申請時に有効期限内の書類を提示しましょう。
振込先口座は、年金の受け取りに使用する口座です。申請者本人名義の口座を指定する必要があります。通帳やキャッシュカードのコピーを提出する際は、口座番号と名義人の情報を明確に読み取れるようにしましょう。
年金の繰下げ受給が向いている人とは
年金の繰下げ受給は、全ての人にメリットがあるわけではありません。ご自分の状況に合わせて、慎重に判断しましょう。ここでは、年金の繰下げ受給が特に有利となる可能性が高い人の特徴について詳しく解説します。
十分な収入や貯蓄がある人
年金の受給を先送りにしても、生活に困らない程度の収入や貯蓄がある人は、繰下げ受給に適しています。例えば、月々の収入が30万円以上あり、さらに数千万円程度の貯蓄がある場合、繰下げ期間中の生活資金は十分確保できるでしょう。このような財政的に余裕がある人は、受給額増加のメリットを最大限に享受できます。
長生きが見込まれる人
ご自分の家系が長寿である、健康状態が良好であるなど、長生きが見込まれる人は、繰下げ受給が向いている可能性が高いと言われています。平均寿命が85歳以上の家系の場合、1年繰下げるごとに受給額が8.4%増額されるため、長期間にわたってその恩恵を受けられます。一方、平均寿命が75歳程度の家系の場合、繰下げによる増額分を十分に享受できない可能性もあるでしょう。
現役で働き続ける意欲と体力がある人
65歳以降も仕事を続けたいと考えている人は、繰下げ受給に適しているでしょう。前述の通り、働くことで年金受給を1年先送りにすると、受給額が8.4%増額されます。仮に月額20万円の年金を受給する予定の場合、1年の繰下げで月額1.68万円、1年間で20.16万円の増額となるのです。このように、働きながら年金受給を先送りにすることで、将来的により多くの年金を受け取れるでしょう。
70歳まで働き続けるケース
65歳から70歳まで5年間働き続け、年金受給を5年繰下げた場合、月額20万円の年金が月額28.4万円に増額されます。1年間では340.8万円もの増額となるのです。働く意欲と体力があるなら、繰下げ受給は有効な選択肢と言えるでしょう。
まとめ
年金の繰下げ受給は、65歳以降に年金の受給を遅らせることで、年金額を増額できる制度です。繰下げ期間に応じて、最大で85歳から年金を受け取る場合、年金額が184%に増額されます。
繰下げ受給のメリットは、生涯受け取る年金総額が増えることですが、デメリットとして、受給開始までの期間、年金を受け取れないことが挙げられます。
繰下げ受給が向いているのは、65歳以降も働く予定がある人や、十分な貯蓄がある人です。繰下げ受給を検討する際は、自分の健康状態や生活スタイルを考慮し、メリットとデメリットを十分に理解したうえで最適な選択をすることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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