- 作成日 : 2024年7月26日
必要な老後資金の目安はいくら?平均貯金額は?
老後に必要な資金として「老後2000万円問題」が注目されていますが、最近の物価の上昇などによりそれでは不足するという話も出ています。では、一体いくらの資金があれば安心して老後を過ごせるのでしょうか。
総務省の家計調査年報によると、65歳以上の単身者や夫婦世帯の平均的な収支を見ると、月々の生活費などの支出が収入を上回っており赤字状況にあることがわかります。
この記事では、65歳以上の単身者と夫婦に必要な老後資金の目安と、平均貯蓄額、老後資金を増やす方法について解説していきます。
目次
必要な老後資金の目安とは?
老後資金とは、退職後に必要となる生活費や医療費、介護費などをカバーするための資金のことを指します。
高齢化社会が加速している中、2019年には、必要な老後資金の目安として「老後2000万円問題」が話題になりました。「老後2000万円問題」とは、2017年に発表された総務省の「家計調査報告」をもとにしており、高齢夫婦で無職世帯が30年間平均的な生活をするために必要と考えられる金額に基づくものです。
この報告書では、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯」の毎月の実収入が20万9,198円に対し、支出の合計が26万3,718円となっています。したがって、毎月5万4,520円が不足するということになります。この月額の不足分を老後30年間と想定すると、約2,000万円の資金が不足するというものです。
また、65歳時点の金融資産は夫婦世帯において2,252万円となっているため、貯蓄を取り崩して生活していくことが予想されます。
今日、物価上昇が続いているため、2,000万円では不足する可能性が高いと思われます。ゆとりのある生活を送りたいなら、さらに多くの資金が必要です。
単身の場合(一人暮らし)
単身者の場合、どのぐらいを老後資金の目安と考えればよいのでしょうか。
老後に必要な生活資金の目安
まずは、65歳以上の単身者の生活費から老後に必要な資金を計算していきましょう。総務省の「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」の概要資料によると、2023年の65歳以上の単身無職世帯の平均的な生活費は、以下のようになっています。
毎月の生活費(消費支出)は、14万5,430円であるのに対し、手取り収入(可処分所得)は114,663円となっています。したがって、毎月30,768円の赤字が生じているという状況です。
この赤字分を保有する金融資産から取り崩して生活する場合、老後生活を65歳から85歳までの30年で計算すると以下のようになります。
生活費の赤字分の合計=30,768円 × 12カ月 × 30年間 =1,107万6,480円
よって単身者の場合、年間約38万円、30年では約1,108万円の生活資金が最低でも必要だと考えられます。さらに、老後生活を20年とする場合は、最低でも約738万円の生活資金が必要だと考えられます。
生活資金以外に必要な資金の目安
老後資金を適切に見積るためには、生活費以外の介護費用や住居費用、葬儀費用などの支出も考慮に入れましょう。
- 介護費用:老後には介護が必要になる可能性があります。介護費用の月額平均は約8万3,000円、年間で約100万円とされています。この金額は、自宅での介護や施設への入所費用などを含みます。
- 住居費用:老後には住居のリフォームや引っ越し費用などが発生する可能性があります。これらの費用は、一般的には数百万円程度とされています。
- 葬儀費用:老後には葬儀費用も必要となります。葬儀費用は、一般的には約120万円が相場とされています。
このように単身者だけでも最低でも約1,100万円の費用が必要です。余裕を持たせるなら2,000万円を考えておくとよいでしょう。
夫婦の場合
夫婦の場合は、どのぐらいを老後資金の目安と考えればよいのでしょうか。
同じように、65歳以上の夫婦(二人以上世帯)の生活費から老後に必要な資金を計算していきます。
総務省の家計調査年報によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均的な生活費は、以下のようになりました。
毎月の生活費(消費支出)は、250,959円であるのに対し、手取り収入(可処分所得)は244,580円となっています。したがって、毎月37,916円の赤字が生じているという状況です。
この赤字分を保有する金融資産から取り崩して生活する場合、老後生活を30年で計算すると以下のようになります。
生活費の赤字分の合計=37,916円 × 12カ月×30年間 =1,364万9,760円
よって、夫婦の場合、年間約45万円、30年では約1,365万円の生活資金が最低でも必要だと考えられます。老後生活を20年とする場合は、最低でも約910万円の生活資金の確保をしなくてはならないのです。
生活資金以外に必要な資金の目安
老後資金を適切に見積るためには、生活費以外の介護費用や住居費用、葬儀費用などの支出も考慮に入れましょう。
・介護費用
老後には介護が必要になる可能性があります。介護費用の月額平均は約8万3,000円、年間で約100万円とされています。仮に、夫婦で一年間介護施設に滞在する場合は、約200万円必要になります。
・住居費用
老後には住居のリフォームや引っ越し費用などが発生する可能性があります。これらの費用は、一般的には数百万円程度とされています。
・葬儀費用
老後には葬儀費用も必要となります。民間の葬儀系の全国調査(※2024年3月にネットで調査)によると、葬儀費用は、一般的には約120万円が相場でした。ただし、葬儀の種類によって、金額が異なるので、120万円というのはあくまでも参考として頭にいれておきましょう。
これらの費用を考慮すると、最低でも2,000万円、余裕を持たせるなら3,000万円の老後資金は用意しておきたいところです。
65歳以上の平均貯蓄額
それでは、65歳以上の方々はどれくらいの貯蓄をしているのでしょうか。
総務省が発表した「家計調査報告(令和5年)」によると、世帯主が65歳以上の全世帯の貯蓄金額の平均値は2,462万円、中央値は1,604万円でした。
貯蓄額が2,500万円以上の世帯がおよそ3分の1を占めているものの、300万円未満の世帯が全体の15%を占めている点は見逃せません。
ちなみに平均値は全体の合計を世帯数で割った値の「平均」のことを指し、中央値は金融資産の多い順に並べたときに真ん中の入る値のことです。平均値は大きな値や小さな値の影響を受けやすいので、中央値の方が標準的な数値により近くなります。
また、こちらでは60代の平均貯蓄額(金融資産保有額)を、単身世帯(一人暮らし)と二人以上世帯(夫婦世帯)に分類し、それぞれ平均貯蓄額と中央値を調べました。65歳以上もその中に含まれますので、一つの目安にしてください。
単身の場合
60代の単身世帯(一人暮らし)の平均貯蓄額(金融資産保有額)は1,468万円、中央値は210万円となりました。これは、金融資産を保有していない世帯を含む場合の保有額になります。これは「家計の金融行動に関する世論調査(2023年)」に基づいています。
世帯 | 平均貯蓄額 (金融資産保有額) | 中央値 | 預貯金 |
---|---|---|---|
金融資産保有世帯 | 2,240万円 | 1,108万円 | 972万円 |
金融資産を保有していない世帯を含む | 1,468万円 | 210万円 | 637万円 |
出典:金融広報中央委員会|各種分類別データ(令和5年) ― 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](平成19年以降)
ここでいう金融資産とは、預貯金、株式、債券など、現金に換えられる資産のことを指します。預貯金とは、銀行や郵便局などに預け入れたお金や運用または将来のための備えことを指します。
金融資産保有世帯でも中央値は1,108万円と2,000万円を下回っています。自身の貯蓄額を把握し、老後資金としてどのくらいの金額を用意すればいいのかを設定しながら資産形成を行っていきましょう。
夫婦の場合
60代の二人以上世帯(夫婦)の平均貯蓄額(金融資産保有額)は2,026万円、中央値は700万円となりました。これは、金融資産を保有していない世帯を含む場合の保有額になります。
その中でも金融資産を保有している世帯の平均貯蓄額、中央値および預貯金は以下の通りです。
世帯 | 平均貯蓄額 (金融資産保有額) | 中央値 | 預貯金 |
---|---|---|---|
金融資産保有世帯 | 2,588万円 | 1,200万円 | 1,130万円 |
金融資産を保有していない世帯を含む | 2,026万円 | 700万円 | 885万円 |
出典:金融広報中央委員会|各種分類別データ(令和5年) ― 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和3年以降)
金融資産保有世帯の夫婦でも、平均貯蓄額は3,000万円よりも少なく、中央値は1,200万円です。老後資金としてはまだ不足していると考えていいでしょう。
そのため、少しでも老後資金を増やす方法を考える必要があります。
老後資金を増やす方法
家計を見直して支出を減らす
まずは、今の支出を見直し、無駄な出費を削減することから始めましょう。これにより、貯蓄額を増やせます。
具体的な方法は以下の通りです。
1. 支出をリストアップする
毎月の収入と、食費、光熱費、交通費などの支出をリストアップします。
2. 削減できる支出を見つけ出す
支出をリストアップしたら、次に必要ない支出を見つけ出します。例えば、使っていない定額制サービス(サブスクリプション)の解約や、外食を控えて自炊を増やすなどの工夫をすれば、無駄遣いが減るでしょう。
3. 節約を工夫する
日々の生活の中で節約を意識することも大切です。電気や水道の無駄遣いをなくす、買い物に行く前にショッピングリストを作る、セール品を購入するなど、小さな節約が大きな貯蓄につながります。
4. 家計簿をつけて予算管理をする
毎月の生活費の予算を設定し、それを超えないように管理することも重要です。予算管理にはスマートフォンの家計簿アプリを活用すると便利です。
年金の繰下げ受給を検討する
年金の繰下げ受給とは、法定上の支給開始年齢である65歳から公的年金を受け取るのではなく、66歳以降75歳までの間で申出た時点から受け取り始める仕組みです。
年金を1カ月繰下げるごとに受給額が0.7%増え、最大で84%増額されます。つまり、年金の受給を遅らせることで、将来的に受け取る年金額が増えるというメリットがあります。
ただし、繰下げ受給を選択する際には以下の点に注意しましょう。
繰下げ受給は、65歳から75歳までの年金を受け取る権利を持った人が対象で、老齢基礎年金と老齢厚生年金ともに繰下げ可能です。また、繰下げ受給の申出は一度しかできず、一度繰下げ受給を選択するとその後は変更できません。
繰下げ受給を選択した場合、受給開始が遅くなるため、その間の生活費をどう捻出するか、また健康状態などのリスクをどう管理するかなど、総合的なライフプランを考える必要があります。
働いて収入を増やす
パートタイムの仕事や、自分のスキルを活かしたフリーランスの仕事などを通じて、収入を増やすことも一つの方法です。
最近では、短時間のみの仕事ができる「スポットワーク」という働き方も注目され、求人系のアプリで自分の都合に合わせて仕事を選べるようになっています。
資産運用(投資)で貯める
資産運用により老後資金を準備する方法はいくつかあります。例えば、株式投資や投資信託などを活用することで、貯金だけでは得られない利益を得ることも可能です。
投資には、株式、債券、不動産、仮想通貨など、多様な投資対象がありますが、リスクも伴うため、自身のリスク許容度や目標に合わせて適切に行うことが重要です。
投資を始める際は、まず少額から始めるのがおすすめです。例えば月3,000円程度を投資信託に積み立てるといった具合です。これにより、投資の基本的な仕組みを学びつつ、リスクを抑えられます。
また、新NISA(少額投資非課税制度)を活用すると、つみたて投資枠だと年間120万円、成長投資枠だと年間240万円までの投資で得られる利益に税金がかからないため、投資初心者の方にもおすすめです。毎月一定額を投資信託に積み立てることで、長期的な資産形成が期待できるでしょう。なお、非課税で投資できる金額には上限があり、つみたて投資枠と成長投資枠合計で1,800万円、そのうち成長投資枠は1,200万円までとなっています。
さらに、一つの商品に集中するのではなく、株式と債券など、異なるタイプの金融商品に分散して投資することで、リスクを軽減することができます。
このように、段階的な投資や制度の活用、分散投資など、さまざまな方法を組み合わせることで、老後資金の増加を目指すことができます。
さまざまな運用商品や非課税制度などを利用して、効率よく老後資金を形成していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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