就業促進定着手当とは?受給条件や申請方法、計算式を解説

就業促進定着手当は、再就職手当を受けた人が再就職先で6ヶ月以上働き、その賃金が離職前より少ない場合に支給されます。この制度はすべて失業者の再就職を支援するための国の制度です。この章では、就業促進定着手当の受給条件や再就職手当との違い、計算式や申請方法について解説します。

就業促進定着手当とは

就業促進定着手当とは、雇用保険における失業等給付の一部で、再就職により賃金が下がった場合に支給される、特定の条件を満たす人が受け取ることができる給付金のことです。

具体的には、「再就職手当」の支給を受けた人のうち、再就職先で半年以上働いたものの、その半年間に支払われた賃金が離職前より少なくなった場合に支給されます。ここで、「再就職手当」とは、原則として失業保険の給付期間の1/3以上を残した状態で再就職が決まった場合にもらえる手当のことを指します。

就業促進定着手当は、就職後に受給した再就職手当の上で、賃金が減少した方のみが適格とされる、かなり条件が厳しい手当だといえます。

就業促進定着手当の主な目的

就業促進定着手当は、平成26年(2014年)の4月1日から開始されました。この制度は、再就職した人が一定の要件を満たした場合に支給されるもので、再就職により賃金が下がってしまった人々を支援することを目的としています。

もし、再就職後の賃金が離職前の賃金よりも低下した場合でも、就業促進定着手当により一定の生活保障が提供されるため、再就職先での定着を促進する効果も期待されます。

就業促進定着手当の受給条件

就業促進定着手当を受給するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。以下に、主な受給条件を詳しく説明します。

再就職手当の支給を受けていること

就業促進定着手当を受けるためには、再就職手当を受ける必要があります。離職期間が長いといった理由で再就職手当を受けていない場合、就業促進定着手当も受けられません。

就業促進定着手当の申請書は、再就職手当の支給決定通知書と同封されるため、紛失しないように注意して保管してください。

再就職手当の特徴

再就職手当は、休職や失業中から迅速に再就職する場合に支給される手当です。

再就職手当の特徴は、次のとおりです。

  • 「ハローワーク就職祝い金」としても知られ、所定の手続きを行うことで受け取ることができます。
  • 雇用保険(失業給付または失業手当)の受給資格とは、「失業状態である」「(原則として)退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12ヶ月以上ある」「ハローワークに求職の申し込みをしている」をすべて満たしていることが必要です。

再就職手当の支給額は、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)に対する一定の割合(70%または60%)を一時金として受け取ることができます。ただし、支給額には上限があります。

再就職手当の受給条件

  • 待機期間を満了している:失業手当の受給資格決定日から7日間が待期期間です。待期期間中に就職すると再就職手当の受給条件外となります。
  • 基本手当の支給残日数が3分の1以上ある:失業手当の給付期間が残り3分の1を切る前に就職しないと、要件に当てはまりません。
  • 再就職先で1年を超えた勤務が確実である:1年間の契約社員で更新がない場合は当てはまらない。
  • ハローワークまたは職業紹介事業者を通して就職している:自己都合による退職の場合は失業手当の支給に制限があります。制限期間の最初の1ヶ月内に再就職する場合、ハローワークや職業紹介事業者からの紹介がないと支給の対象外となります
  • 離職した前の事業所への再就職ではない:辞めた会社に再就職した場合、条件を満たしません。
  • 3年以内に行われた前の雇用に関して、再就職手当または常用就職支度手当を受給していない場合。
  • 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた再就職でない。
  • 原則、雇用保険の被保険者となっている:雇用保険に加入せずに、自営業など新規に開業した場合でも再就職手当の対象になることがあります。

再就職手当を受けるためには、ハローワークによる手続きが必要です。新たな就職が決まったら速やかにハローワークに連絡し、必要な手続きを進める必要があります。

再就職手当を受給すると、その時点で残っていた失業保険の給付権利が消滅します。したがって、再就職後に何らかの理由で離職した場合でも、再度失業保険を受けることはできません。

再就職後、半年以上働きかつ雇用保険に加入していること

就業促進定着手当を受けるためには、再就職の日から同じ職場に6ヶ月以上勤務しており、かつ雇用保険に加入している必要があります。勤務先が半年経過前に出向などで変更される場合、たとえ事業主の都合であっても、就業促進定着手当の受給資格が失われることがあります。

具体的には、以下のような状況を想定します。

  • 再就職後、半年以上働く:ある人が会社Aを退職し、会社Bに再就職したとします。この人が就業促進定着手当を受けるためには、会社Bで継続して半年以上働く必要があります。たとえば、再就職後5ヶ月で会社Bを退職した場合、この条件を満たさないため、就業促進定着手当を受けることはできません。
  • 雇用保険に加入していること:再就職先の会社Bで働き始めたとき、この人は雇用保険に加入している必要があります。雇用保険に加入していないと、就業促進定着手当を受けることはできません。

これらの条件を満たすと、再就職後の半年間の賃金が離職前の賃金よりも低い場合、就業促進定着手当を受けることができます。ただし、これらの条件を満たしていない場合や、支給決定されるまでに会社を退職した場合は、就業促進定着手当を受け取ることはできません。

再就職後の賃金が離職前より低いこと

就業促進定着手当を受けるためには、再就職後半年の間に支払われた賃金の1日分の額(賃金日額)が、離職前の賃金日額より低いことも条件のひとつです。重要な点は、比較すべきは半年間に支払われた賃金の「総額ではなく、日額である」ということです。

具体的には、以下のような状況を想定します。

  • 再就職後の賃金が離職前より低い:ある人が会社Aを退職し、会社Bに再就職したとします。この人が就業促進定着手当を受けるためには、会社Bでの賃金が会社Aでの賃金よりも低くなっている必要があります。たとえば、会社Aでの月給が30万円だったが、会社Bでの月給が25万円に下がった場合、この条件を満たします。
  • 賃金の計算:就業促進定着手当の支給額は、離職前の賃金日額と再就職後の賃金日額の差に、再就職後の賃金の支払いの基礎となった日数を掛けて算出されます。ただし、支給額には上限があり、基本手当の支給残日数の40%を上限とします。

就業促進定着手当の計算式

就業促進定着手当の計算式は以下の通りです。

就業促進定着手当 = (離職前の賃金日額 – 再就職後の賃金日額) × 支払基礎日数

 

・離職前の賃金日額:離職前の月給を30で割ります。

・再就職後の賃金日額:再就職後6ヶ月間の賃金の合計額を180で割ります。

・支払基礎日数:再就職後6カ月間で賃金の支払いの基礎となった日数です。

ただし、この計算式で求めた金額が就業促進定着手当の上限額を超える場合、上限額が支給額となります。上限額は以下の計算式で求められます。

上限額=基本手当日額×支給残日数×30%(または40%)

 

ただし、就業促進定着手当の支給額には上限があり、基本手当の支給残日数の40%を上限とします。したがって、上記の計算式で得られた金額が上限を超える場合、支給額は上限額となります。

ここで、基本手当日額は雇用保険受給資格者証の1面19欄に記載されています。支給残日数は失業保険がもらえる残りの日数です。また、30%または40%は再就職手当の受給率が70%だった場合は30%、60%だった場合は40%となります。

具体的な例を挙げてみましょう。以下の条件を想定します。

離職時の年齢:28歳
再就職日:2019年4月1日
離職前の月給:27万円
離職前の賃金日額:9,000円
基本手当日額:5,699円
失業保険支給残日数:60日
再就職手当の受給率:70%

<月給27万円から月給25万円になった場合の就業促進定着手当>

1.まず、再就職後の賃金日額を計算します。再就職後の月給25万円を6で掛けて180で割ります。

再就職後の賃金日額=250,000×6÷180​=8,333円

2.次に、就業促進定着手当を計算します:

就業促進定着手当=(9,000−8,333)×180=120,060円

3.この金額が上限額を超える可能性があるため、上限額を計算します。再就職手当の受給率が70%だったので、30%を掛けます。

上限額=5,699×60×30%=102,582円

したがって、就業促進定着手当の支給額は上限額の102,582円となります。

この金額は上記の計算式に基づいて求められ、上限額を超えているため、上限額の102,582円が支給額となります。

就業促進定着手当の申請方法

就業促進定着手当の申請は、以下の手順で行います。

ステップ1: 就業促進定着手当支給申請書の記入

申請者本人が記入する欄と、再就職先の会社に記入してもらう欄があります。

本人が記入する欄は、6番から10番までの項目で、姓名(漢字)、郵便番号、電話番号、住所(漢字、アパート・マンション名まで)です。その後、11番から15番までの項目を会社に記入してもらい、内容を確認した上で、16番の項目に申請日を記入し、署名・捺印します。

ステップ2: 必要書類の準備

申請には、以下の書類が必要です。

  • 就業促進定着手当支給申請書
  • 雇用保険受給資格者証
  • 出勤簿またはタイムカードの写し(再就職日以降6ヵ月分)
  • 給与明細または賃金台帳の写し(再就職日以降6ヵ月分)

ステップ3: ハローワークへ申請

準備した書類を持って、最寄りのハローワークに行き、就業促進定着手当の申請を行います。窓口へ直接持参するか、郵送でも構いません。

申請から支給まで、約1.5ヶ月程度かかることが一般的です。具体的な日数は自治体によって異なるため、詳細は利用しているハローワークに問い合わせてみるとよいでしょう。

なお、申請書類に誤りがあった場合は、書類の修正・再提出が必要になるので注意しましょう。

就業促進定着手当の申請期限

就業促進定着手当の申請は、再就職した日から6ヶ月経過した日の翌日から2カ月間となります。具体的には、4月1日に再就職をしたら、10月2日から12月2日までが申請期間となります。

申請期間を過ぎてしまうと、特別な事情が認められない限り、申請は受け付けられません。そのため、申請期間を忘れずに確認し、期間内に必要な手続きを行うことが重要です。

就業促進定着手当が支給されるタイミング

就業促進定着手当の支給方法は、申請手続きが完了してから支給決定通知書が届くまでの期間は、約2週間から1ヶ月かかります。実際の支給は、支給決定通知書が届いてから1週間以内に行われます。支給は基本的に一括で行われ、分割や月ごとの支給は原則として行われません。

就業促進定着手当は、通常、指定された銀行口座に直接振り込まれます。支給日は、ハローワークからの通知で確認することができます。

就業促進定着手当が支給されないケースとは

就業促進定着手当は、再就職手当を受給した個人が、その後6ヶ月以上勤務し、かつ勤務中の賃金が失業手当を受給する直前の水準よりも低い場合に支給される手当です。しかし、以下のようなケースでは支給されません。

  • 再就職手当の支給を受けていない場合:就業促進定着手当をもらうには、再就職手当をもらっている必要があります。
  • 再就職先での雇用期間が6ヶ月未満の場合:再就職手当の支給を受けた企業での勤務が6ヶ月未満で終了した場合、この手当の対象とはなりません。
  • 再就職後の日額賃金が離職前の水準を上回る場合:再就職後の6ヶ月間に支給される日々の賃金が、離職前の賃金よりも高い場合も、条件の1つとなります。
  • パートタイムやアルバイトへの転職の場合:以前はフルタイムで勤務していた人が、再就職後にパートタイムやアルバイトなどの仕事に移った場合、賃金日額が減っていないこともありますが、そのために就業促進定着手当を受給できない場合があります。

就業促進定着手当と再就職手当の違い

就業促進定着手当と再就職手当は、すべて失業者の再就職を支援するための制度です。この他に基本手当があります。

基本手当は、雇用保険に加入している労働者が失業した場合に支給される給付金です。これは、失業者が再就職活動に専念できるように、生活を支えるための手当です。

再就職手当は、失業者が早期に再就職することを奨励するための制度です。基本手当の受給資格がある人が早期に再就職した場合、基本手当の残りの日数に対する一定の割合が一時金として支給されます。

就業促進定着手当は、再就職手当の受給者がその再就職先で一定期間以上働き続けることを奨励するための制度です。再就職先での賃金が離職前の賃金に比べて低下している場合、一定の手当が支給されます。

これらの手当は、それぞれ失業者の再就職を支援し、雇用の安定を促進することを目的としています。

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